中華思想史の流れがわかる「思想史」の魅力を紹介

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今回は古代から近代までの中華思想を読み解く「思想史(中国文化叢書3)」のおすすめポイントをお伝えします。

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「思想史(中国文化叢書3)」 おすすめの概要

ボリューム
読みやすさ
くわしさ
お買い得感
総合
  • 編著:赤塚忠・金谷治・福永光司・山井湧ほか
  • 発行:大修館書店
  • 巻数:全1巻(中国文化叢書3)
  • 総頁:374ページ(8版:366ページ)
  • 定価:3000円+税

思想文化の通史。キーワードがわかる。

概要
思想と人物達の概要や、それぞれの歴史的な位置づけなどを、当時の社会や文化の流れに絡めて読み解いた通史のガイド本です。単品を見ただけではわかりにくい全体の流れを、広い視野で俯瞰することができます。索引・参考文献目録つき。

ごく現在に近い年代を除いた中華の歴史を以下の4つに分類。それぞれの担当著者がそれぞれの時代の通説をガイドし、通説と見解が分かれる部分については著者の考察も加えられています。

4つの分類
  • 諸子百家があらわれ儒家経典が推された漢初のあたりまでを古代
  • 道家と仏教がブームとなった唐末や宋初あたりまでを中世
  • 経書を重んじ体系化した朱熹、経書にこだわらない実践を重んじる陸象山、王陽明があらわれ、やがて自由な視点で古典や経書を考証する考据学がブームとなった清末までを近世
  • 阿片戦争・辛亥革命がおきて王朝文化が途絶え、蒋介石の国民党・毛沢東の共産党・その他の軍閥勢力があらわれ、抗日戦や国共戦争を経て中共が覇権を握り、狭義の中国が誕生するまでのあたりを近代

図解等は少なく、あくまで文字を中心とした本です。

初心者の方が読んだ場合は、知らない人物名や用語がボトルネックとなって読みにくいと感じる部分も有るかもしれません。しかしガイド自体は理路整然としたものですので、人物と用語さえ調べながら読めば、初心者の方も無理なく話を飲み込むことが出来ます。

言い方を変えるとそれぞれの要素を読み解くために必要な、知っておくべきキーワードがわかる、ということでもあります。そういう意味で一般的な読解力さえあれば、初心者が効率よく思想史を知ることが出来るオススメ本です。

もちろん既知の方の確認用、中級者の補強用としても不足なく機能します。函入の本ですが、表紙は柔らかい紙素材ですのでページめくりしやすいという点も、耐久性と読みやすさを兼ね備えた小さなプラスポイントです。

おすすめのポイント

おすすめポイントをお知らせしたいウサギの挿絵

さらに細かく「思想史(中国文化叢書3)」の魅力についてお伝えします。(参考:1997年4月30日発行 8版)

年表と索引:初心者の方にオススメな読みかた

思想史のプレビュー

大修館書店「思想史」1997年発行の第8版 より

初心者の方にオススメな読みかたとして、わかる所や興味のある箇所から徐々に読んでいく、という方法があります。年表や索引をパラパラめくって好きなところだけ読むという方法です。

興味のないところは無理して読まなくても良いです。無理をしたとしても、どの道いっぺんに理解できる情報量ではありません。暗記でなく根っこからの理解が大切な分野ですから、飲み込める分だけすこしずつ飲み込み、長い期間をかけながら徐々に切り崩していけばOKです。そういう意味では賞味期限の長い本といえます。

年表の国号や時代名から検索する場合は、つぎのような分類で対応されています。(1997年発行8版)

対応図
  • 古代のページ → 殷・周・秦・前漢初期
  • 中世のページ → 前漢・新・後漢・三国・晋・南北朝・隋・唐・五代・北宋初期
  • 近世のページ → 北宋・南宋・元・明・清のアヘン戦争
  • 近代のページ → 清中期・現代の文化大革命まで

たとえば三国志の時代、魏晋南北朝の時代が好きな方なら、中世のページは知っている人物名や用語が多く登場し、スラスラ読みやすいと思います。

思想史に興味がのあるという熱量をもった方でしたら、自然とその前後の時代についても興味が湧くでしょうから、そこをベースにして徐々に理解を広げることが出来ます。

総説

★ 総説(担当著者:金谷治)

冒頭のこの章では、まず思想の定義、思想を学ぶ意味、思想の位置づけ、思想史の概念などが解説されています。

次いで日本における中華の思想史研究の流れを解説。研究の起点として遠藤隆吉《支那哲学史》などを挙げ、その後の要点となる人物や研究書を中心に解説。東西の学派による研究の性質の違いについても語られています。

★ ボリューム:約20ページ。

古代の思想

★ 古代の思想(担当著者:渡辺卓)

まず、先史から思想というものが、どのようにして生まれたのかを、社会背景や生活文化などの流れをガイドしながら語られています。

次いで孔子と儒家学派、博愛の墨子、仁義の孟子、論理の名家、老荘などの道家、易や陰陽家、論理分析と整理の荀子、韓非や法家、その他の諸子百家についての解説。書物単位では他にも雑家に分類される呂不韋の帝王学《呂氏春秋》、百科事典的な書《淮南子》、漢書以降に儒家経典として推されることになる《中庸》《大学》《孝経》などが文章多めにガイドされています。

だいたい発生順の並びで解説されていますので、ざっくり読むだけで自然と古代の思想の流れを掴むことができます。

諸子百家という題材は学校の教科書でも名前が登場しますし、春秋戦国時代については《孔子伝》などの小説や、《キングダム》のような漫画もあり、用語や人物名などに触れる機会が比較的多い人気のある時代です。そういった意味で内容が飲み込みやすく、初心者の方でも読みやすい章です。

★ ボリューム:約65ページ。

中世の思想

★ 中世の思想(担当著者:儒家関連→日原利国、道家関連→高田淳、仏教関連→荒木見悟)

まず漢で儒家思想が推された経緯、どのように扱われ、どのように発展したかが解説されます。礼教と経学が重んじられた後漢のころの思想研究の様子も、ページを多く割いて語られています。

次いで道家を中心にした項。三国の時代が終わり、司馬一族のたてた晋朝から六朝にかけ、当時の知識人のあいだでブームとなった老荘思想の解説。竹林の七賢とよばれる隠者たちの様子や、曹一族の魏で発展してその後にも続いた文学の発展の流れも語られています。

シメは魏晋で徐々に影響力を強め、隋唐で最盛に至った仏教の解説。仏教のひろがりの様子や儒家や道家思想との衝突の様子が語られています。単純仏教が浸透した後の禅宗と「さとり」の概念のひろまりかた、各宗派の解説へと進み、儒道仏の3教のまとめが語られて次の近世に流れていきます。

こちらの中世の項についても、人気のある三国志の時代に絡んでいることや、中華と似たような時期に日本に伝来した仏教が関連していることから、なじみのあるワードが少なくありません。そういう意味でこちらも初心者の方でも読みやすい章と言えます。

★ ボリューム:約80ページ。

近世の思想

索引ページのプレビュー

大修館書店「思想史」1997年発行の第8版 より

★ 近世の思想(担当著者:宋学理学がらみ→友枝龍太郎、心学がらみ→山下龍二、気学と古典学など→佐藤震二)

貴族門閥の社会であった唐がたおれ、宋代になると士人官僚の活躍の場が増えました。仏教の影響は幾分弱まり、この時代は儒家や道家の学問が息を吹き返した時代でもあります。そこで儒道仏の3要素を絡めたような複雑な思想も生まれました。

まず宋学とよばれる北宋のころの学問や思想に関連する中心人物たちの概要が解説されています。その宋学は南宋に時代が移ると朱熹によって体系的にまとめられます。この朱熹の学問や経典の理(ことわり)をきわめることで人は磨かれるという思想全体をざっくり指して理学・朱子学と呼び、その体系付けの様子や思想の要点が解説されています。

朱熹のカッチリした思想学問の体系化の一方、学問だけではなく心の修練と実践によって人は磨かれるという思想の流れもありました。これを心学と呼びます。心学の中心人物として陸象山などが挙げられ、理学と心学の特性や違いなどが解説され、やがて二つの思想が交じり合うような流れの過程も語られています。

元・明へと時代が流れると国定化した朱子学・理学は本質を失い形骸化していきます。このながれで台頭したのが王陽明で、彼は心学を発展させ、彼の思想は陽明学と呼ばれ朱子学を圧倒していきました。この一連の流れがこまかに解説されています。

陽明学は拡大し、その一派は政治分野と結びつきます。このうちの左派は君主批判と政治改革の理論を発展させて過激化し、やがて明の打倒の流れと合流し、ついには明朝は打倒されます。こちらの流れについても解説されています。

明末と清朝初期の解説は、陽明学の左右による派閥対立にはじまります。過激化した左派に対抗する形で、朱子学的要素をゆるく取り込んだ右派によって生み出された気学が主流になっていく様子が解説されます。

陽明学のいざこざの一方で、経書に対する考証を加える考据学もブームとなり、その理由の通説と3つの見解を述べています。その考証のながれは史書やあらゆる古典におよび、さまざまな書物が整理されていきました。ここでは当時の古典学についての功罪にも触れています。すなわち、ブームになって良く古典が整理されたけども、それに夢中になりすぎて新しいものを生み出す方向へのパワーが減り、思想の発展性が停滞した、といった趣旨の内容が語られています。

古典考証に特化した学派として公羊学派を挙げ、その活動の内容についての解説もされています。

★ ボリューム:約95ページ。

近代の思想

★ 近代の思想(担当著者:清末→後藤基巳、中華民国時代から→山口一郎)

清朝は西洋思想が流入した時代でもあります。イエズス会によってキリスト教のカトリックが、ロンドン会によってプロテスタント宗派が流入し、それにともなって西洋思想も流入。そして太平天国・太平キリスト教の流れに至るまでの経緯について語られています。

次いでアヘン戦争の敗北、西洋思想を取り込んだ孫文による民族主義、辛亥革命にいたるまでの経緯についての解説へと続き、中華民国時代に時代が移ります。

西洋思想を肯定しながら伝統思想も保持した民国革命は、清末以上の混乱を招いてしまいます。右から左から一緒くたに取り込んで起こした孫文の革命を、妥協の上に成立した革命と解し、その後の袁世凱が引き起こす混乱の様子を解説。挫折の反動として、伝統思想をつよく否定し儒教批判を行った毛沢東への流れとヒモ付けしています。

西洋思想のマルクス主義を御旗として奉じる中共の毛沢東に対して、伝統思想をあきらめなかった国民党の蒋介石のほうの流れも解説。伝統の新たな流れとして新儒教主義などを挙げてガイドしています。

最初に劣勢だった中共の毛沢東は、抗日戦による国民党や諸軍閥との停戦を経て、徐々に思想論理を強化しながら勢力を伸ばし、ついに国民党を大陸から除き、台湾島へと追い込めるまでに至るあたりまでの経緯が語られ、本書(8版)の結びとしています。

★ ボリューム:約75ページ。

オススメのまとめ

自然な傾向として、古代や中世は史料が少ないので通説によるガイドが多く、現代に近しい年代の解説は、参考資料やフィローすべき事跡の多さから見解が分かれやすく、通説に加えて担当著者による考察が多めになっています。

それぞれの要素の解釈については、きっと見解の分かれる部分も有るかと思いますが、とにかく、大きな流れをつかむために十二分に機能してくれる点が「思想史」の魅力です。

全体で見ると情報量は多いのですけど、それぞれの要素の単品の解説文章の量は決して多くないので、初心者の方も疲れずに読みきることが出来ます。そういう面も初心者にオススメしやすいポイントであります。

こんな人にオススメ
  • 中華思想のおおきな流れをつかみたい人
  • 中華思想の各要点をサラッと確認したい人
  • 通史が好きな人
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