蟹生:カニのたたきの香味油和え《中饋録》訳注01

中饋録

※ このページは呉氏《中饋録》脯鮓の蟹生の原文、書き下し、現代語訳、注釈、現代的レシピを掲載したものです。

関連 中饋録まとめ

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【レシピ】カニのたたきの香味油和え

カニのたたきのイメージとパンダの料理人の挿絵

調理イメージ

中饋録(ちゅうきろく)》にある蟹レシピを紹介します。香味たっぷりの味付けをした胡麻油ドレッシングで、身体を中から温めて健康を保つことが期待できる歴史料理です。

じゅんびするもの
  • カニの足のむき身:適量
  • ごま油:適量(ドレッシングに使える程度)
  • カルダモン・フェンネル・シャニン・サンショウ・ショウガ・コショウなどお好みの香辛料の粉末:量はお好みで
  • ねぎ、塩、酢:適量
  • 煮物なべ
  • お料理スタート
  • STEP.1
    カニの足のむき身の下準備
    カニのむき身をタタキにする or 細かくする。この時点でカニはまだ鍋に入れない。
  • STEP.2
    油を熱する
    鍋でごま油を加熱、油をほどよく加熱したら火から離す。
  • STEP.3
    調味料を鍋に入れる
    お好みの香辛料どうしを混ぜて鍋に入れる。調味料を加えて味を整えてかき混ぜる。
  • STEP.4
    むき身を鍋に入れる
    カニを鍋に投入。ほどよく馴染めばできあがり。
  • 完成
    風味が落ちないうちにお早めにお召し上がりください。

【原文・白文】《中饋録》蟹生

呉氏《中饋録》脯鮓

蟹生

 説郛の原文 

用生蟹刴碎以麻油先熬熟冷并草果茴香砂仁花椒末水薑胡椒俱為末再加葱鹽醋共十味入蟹内拌勻即時可食

 古今図書集成の原文 

用生蟹剁碎以麻油先熬熟冷并草果茴香砂仁花椒末水薑胡椒俱為末再加蔥鹽醋共十味入蟹內拌勻即時可食

 注釈 明《説郛》巻九十五。清《古今図書集成》経済彙編、食貨典、飲食部、彙考三。に《中饋録》収録。

書き下し・注釈

生蟹(なまがに)
刴碎(きりくだ)
くを用し、以て麻油を先ず熬熟して冷す。草果、茴香、砂仁、花椒末、水薑、胡椒、俱に末を(つく)りて并わせ、再び葱、(しお)()を加う。十味共に蟹の内に入れて(ひとし)く拌し、即時に食す可し。

注釈

刴碎=刴(剁)は切る、切り分ける意味。碎は砕に通じ、くだく、細かくすること。/《廣韻》→桗は刴、刴は()(わか)つ也。《説文解字》→碎はクダク也。《廣韻》→碎は細破する也。

麻油=マーユ。日本では焦がしニンニク油ですが、中華では胡麻油のことを指します。

熬熟=ここでは熬は煎ること、熟は煮ることで、総合して加熱することと解釈。/《説文解字》→熬は乾煎(からいり)する也。《説文解字》→熟は食を()る也。

草果=ソウカ。ショウガ科のアモムム・ツァオコの果実を用いた生薬を草果という。《本草綱目》にも色んな薬の材料として30箇所以上に登場。料理には香辛料として使用。カルダモンで代用可。薬効は下記付録を参照。

茴香=ウイキョウ。セリ科ウイキョウ属の多年草。フェンネルのこと。《本草綱目》にも薬の材料として名があります。料理には香辛料として使用。フェンネルシードで代用可。薬効は下記付録を参照。

砂仁=シャニン。縮砂、シュクシャとも。ショウガ科のアモムム属。こちらも生薬として機能し薬膳に使用され《本草綱目》にも薬の材料として名があります。胃腸にやさしい香辛料。薬効は下記付録を参照。

花椒末=カショウ、サンショウの粉末。日本産の山椒とは味が微妙に異なり、花椒は刺激的な辛味で、山椒はマイルドな辛味。《本草綱目》にも薬の材料として名があります。薬効は下記付録を参照。

水薑=ショウガの汁(薑汁)、またはショウガに類する何か。薑は姜に通じ、ショウガのことを指す。《論語》に「不撤薑食。不多食。」とあり、はじかみと訓されます。はじかみとはショウガやサンショウの古名。薬効は下記付録を参照。

=ここでは粉末のこと。

葱、鹽、醋=ねぎ、塩、酢。

=均に通じる。ひとしく拌す、とはムラなくまぜて馴染ませること。

現代語訳

生のカニをタタキにしたり細かくして準備しておきます。そして胡麻油を加熱してひと煮たちしたところで冷まし、そこにカルダモン・フェンネル・シャニン・サンショウ・ショウガの汁・コショウなどを混ぜた香辛料の粉末を入れ、そしてネギ、塩、酢を加えます。それら10種類の調味料を、用意しておいたカニのたたきに入れて、良く混ぜて和えます。お早めにお召し上がりください。

解説と考察

美味しそうなカニのほぐし身の挿絵

全体のイメージで言えば、カニのほぐし身にドレッシングをかけたような完成図が浮かびます。

つかうカニの部位としては、まさか殻まで入れてしまっては口の中ガリガリしますから、あしのむき身を使うのでしょう。このレシピは斬る刻むという記述からして、カニの脚のむき身のことを対象したレシピであり、ミソうんぬんとは触れていませんから、かにみそはお好みでということでしょうか。

鍋を使うとは原文に一言も書いてありませんけども、直火だとごま油に引火しちゃいますので、ここではちゃんと鍋を使います。

味は胡麻油・ショウガ・サンショウ・コショウなどを用いていますので、身体がポッポする辛めのお味になるでしょう。

分量を詳しく示していないのは、好みの辛さによって自由に調整して欲しい、ということを含みにしているのだと思われます。ただし油の使いすぎは身体に良くありませんから、香辛料の粉末が溶かせるだけの量、ドレッシング程度の量にとどめておくのが健康的です。

即時に召し上がるべし、というのは、やはり油料理は冷めてしまっては風味が落ちてしまうことを気にしているのでしょう。

付録:レシピ内の生薬の用途《本草綱目》より

★ 草果の生薬の用途について。

虛火補之
虛火補之

  • 上(人參・天雄・桂心)
  • 中(人參・黃・丁香・木香・草果
  • 下(附子・桂心・硫黃・人參・沉香・烏藥・破故紙)
※ 「火」は陰陽五行の考え方(五臓・五悪気)でそれぞれ心や熱に通じます。虛火は体調不良・ストレス・自律神経失調などの理由による発熱、微熱、ほてり、めまいなどの症状。補之はそれらの症状をフォローするという意味。草果は2番目の調合の材料として記載されています。
寒濕
寒濕(乾薑・附子・草果・官桂・丁香・肉豆蔻・人參・黃)
※ 濕は湿に通じます。寒濕とは、身体を冷やしたり湿ったままにしておくと身体に害が及ぶという概念で、《黄帝内経・素問・調經論》に「寒濕之中人也、皮膚不收、肌肉堅緊、營血泣、衛氣去。」(身体のなかを寒濕させると皮膚・筋肉・血流・気がよろしくない。)とあるように、外的だけでなく内的にも寒さを感じると良くないという考え方、およびそれに起因して発症した症状を指しています。身体を暖める生薬の材料として草果や丁香(クローブ)などが挙げられていることがわかります。
主治第三卷 百病主治藥

《本草綱目》主治第三巻・百病主治藥の脾胃の項目の、さらに【食滞】草部に草果が挙げられています。これは胃もたれや消化不良に効くということを示した記述になります。ほかにも同項目に縮砂(砂仁)・醬・海藻などの名前が見えます。

※ 食滞は胃腸消化の働きが良くない症状、胃や腹の調子が悪い様を指します。食滞の症状のほかには虛寒・痰食・痰熱・虛損・口臭の症状の生薬の材料として名前が見えます。主治第四巻では帶下の項目などに名前が挙げられ、幅広い用途で効果を期待された材料であることがわかります。

★ 茴香の生薬の用途について。

火弱補之 益陽
火弱補之 益陽(附子・肉桂・益智子・破故紙・沉香・川烏頭・硫黃・天雄・烏藥・陽起石・舶茴香・胡桃・巴戟天・丹砂・當歸・蛤蚧・覆盆)
※ 「火」は陰陽五行の考え方(五臓・五腑・五主・五悪気)でそれぞれ心臓・腸・血流・熱にあたります。火弱補之とは心臓・小腸・血流・低体温や気の減少をフォローする意味。益陽は体調や気を増す意味。舶茴香(アニス・茴香に近い種)は茴香のなかま。
虛寒補之
虛寒補之

  • 氣(白朮・楝實・茴香砂仁・神曲・扁豆)
  • 血(桂心・延胡索)
※ 虛寒は、体調不良やストレスや自律神経失調などの理由による冷え、悪寒、鬱血などの症状。補之はそれらの症状をフォローするという意味。「寒」は陰陽五行の考え方(五悪気)で「水」の属性に通じています。水は陰陽五行の五臓でいうと「腎」にあたり、次項のように腎臓に効く材料としても茴香の名前が挙がっています。
茴香の効能
茴香(腎邪冷氣、同附子、制爲末服。)
※ これは茴香を粉末にして服用すると腎臓・冷気を改善してくれる効果があることを示した記述です。ほかにも反胃・寒濕・痰食・濕熱・逐陳・殺虫・虛寒・寒氣・痰積・風寒濕厥・口臭・疳瘡・内治活血などの項目に名前があり、多用途な材料であることがわかります。

★ 砂仁の生薬の用途について。

土虛補之
土虛補之

  • 補母(桂心・茯苓)
  • 氣(人參・黃・升麻・葛根・甘草・陳橘皮・藿香・葳蕤・縮砂仁・木香・扁豆)
  • 血(白朮・蒼朮・白芍藥・膠饴・大棗・乾薑・木瓜・烏梅・蜂蜜)
※ 「土」は陰陽五行の考え方(五臓・五腑)で「脾・胃」に該当します。脾は循環器系の「すい臓」あたりを指し、土虛とは「消化・循環器系の弱り」ということを示しています。補之はその症状をフォローするという意味。縮砂仁は気の方面からこれを助ける材料として名前が挙げられています。
水弱補之
水弱補之

  • 補母(人參・山藥)
  • 氣(知母・玄參・補骨脂・砂仁・苦參)
  • 血(黃柏・枸杞・熟地黃・鎖陽・肉苁蓉・山茱萸・阿膠・五味子)
※ 「水」は陰陽五行の考え方(五臓・五腑・五主・五悪気)で「腎・膀胱・骨髄・寒」にあたります。水弱補之はそれらの弱りをフォローするという意味で、砂仁は気の方面でこれを支える材料として名前が見えます。砂仁はこれ以外でも痰食・虛寒・濕熱・濕熱氣郁・調脾胃・痰氣・溫中散郁・外治・風熱・濕熱・諸骨哽・安胎などの項目に名前があり、こちらも多用途です。

★ 花椒の生薬の用途について。

蟾蜍
蟾蜍(破傷風病、剁爛入花椒、同酒炒熟、再入酒、熱服、取汗。)
※ 蟾蜍(せんじょ)とはヒキガエルを乾燥させたもので、細かくした花椒をよく煮込み、酒と加えて熱したものを服用すると、破傷風の発熱による発汗を抑える効果が有る。ということを示した記述です。花椒はほかにも熏洗・蟲(虫除け)・秃瘡・陰疳・帶下などの項目に名前があります。

★ 薑の生薬の用途について。

※ 薑は薑・生薑・乾薑・薑汁・山薑などの言葉で数多く見えます。単品で使ったり、つなぎの材料としたり用途は様々です。

★ 胡椒の生薬の用途について。

胡椒
※ 胡椒に関しても薑とおなじく、単品で使ったり、つなぎの材料としたり用途は様々です。
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