※ このページは呉氏《中饋録》脯鮓の蟹生の原文、書き下し、現代語訳、注釈、現代的レシピを掲載したものです。
関連 中饋録まとめ【レシピ】カニのたたきの香味油和え
《中饋録》にある蟹レシピを紹介します。香味たっぷりの味付けをした胡麻油ドレッシングで、身体を中から温めて健康を保つことが期待できる歴史料理です。
- カニの足のむき身:適量
- ごま油:適量(ドレッシングに使える程度)
- カルダモン・フェンネル・シャニン・サンショウ・ショウガ・コショウなどお好みの香辛料の粉末:量はお好みで
- ねぎ、塩、酢:適量
- 煮物なべ
- お料理スタート
- STEP.1カニの足のむき身の下準備カニのむき身をタタキにする or 細かくする。この時点でカニはまだ鍋に入れない。
- STEP.2油を熱する鍋でごま油を加熱、油をほどよく加熱したら火から離す。
- STEP.3調味料を鍋に入れるお好みの香辛料どうしを混ぜて鍋に入れる。調味料を加えて味を整えてかき混ぜる。
- STEP.4むき身を鍋に入れるカニを鍋に投入。ほどよく馴染めばできあがり。
- 完成風味が落ちないうちにお早めにお召し上がりください。
【原文・白文】《中饋録》蟹生
蟹生
説郛の原文用生蟹刴碎以麻油先熬熟冷并草果茴香砂仁花椒末水薑胡椒俱為末再加葱鹽醋共十味入蟹内拌勻即時可食
古今図書集成の原文用生蟹剁碎以麻油先熬熟冷并草果茴香砂仁花椒末水薑胡椒俱為末再加蔥鹽醋共十味入蟹內拌勻即時可食
書き下し・注釈
生蟹の
刴碎くを用し、以て麻油を先ず熬熟して冷す。草果、茴香、砂仁、花椒末、水薑、胡椒、俱に末を為りて并わせ、再び葱、鹽、醋を加う。十味共に蟹の内に入れて勻く拌し、即時に食す可し。
刴碎=刴(剁)は切る、切り分ける意味。碎は砕に通じ、くだく、細かくすること。/《廣韻》→桗は刴、刴は斫り剉つ也。《説文解字》→碎はクダク也。《廣韻》→碎は細破する也。
麻油=マーユ。日本では焦がしニンニク油ですが、中華では胡麻油のことを指します。
熬熟=ここでは熬は煎ること、熟は煮ることで、総合して加熱することと解釈。/《説文解字》→熬は乾煎する也。《説文解字》→熟は食を飪る也。
草果=ソウカ。ショウガ科のアモムム・ツァオコの果実を用いた生薬を草果という。《本草綱目》にも色んな薬の材料として30箇所以上に登場。料理には香辛料として使用。カルダモンで代用可。薬効は下記付録を参照。
茴香=ウイキョウ。セリ科ウイキョウ属の多年草。フェンネルのこと。《本草綱目》にも薬の材料として名があります。料理には香辛料として使用。フェンネルシードで代用可。薬効は下記付録を参照。
砂仁=シャニン。縮砂、シュクシャとも。ショウガ科のアモムム属。こちらも生薬として機能し薬膳に使用され《本草綱目》にも薬の材料として名があります。胃腸にやさしい香辛料。薬効は下記付録を参照。
花椒末=カショウ、サンショウの粉末。日本産の山椒とは味が微妙に異なり、花椒は刺激的な辛味で、山椒はマイルドな辛味。《本草綱目》にも薬の材料として名があります。薬効は下記付録を参照。
水薑=ショウガの汁(薑汁)、またはショウガに類する何か。薑は姜に通じ、ショウガのことを指す。《論語》に「不撤薑食。不多食。」とあり、はじかみと訓されます。はじかみとはショウガやサンショウの古名。薬効は下記付録を参照。
末=ここでは粉末のこと。
葱、鹽、醋=ねぎ、塩、酢。
勻=均に通じる。ひとしく拌す、とはムラなくまぜて馴染ませること。
現代語訳
生のカニをタタキにしたり細かくして準備しておきます。そして胡麻油を加熱してひと煮たちしたところで冷まし、そこにカルダモン・フェンネル・シャニン・サンショウ・ショウガの汁・コショウなどを混ぜた香辛料の粉末を入れ、そしてネギ、塩、酢を加えます。それら10種類の調味料を、用意しておいたカニのたたきに入れて、良く混ぜて和えます。お早めにお召し上がりください。
解説と考察
全体のイメージで言えば、カニのほぐし身にドレッシングをかけたような完成図が浮かびます。
つかうカニの部位としては、まさか殻まで入れてしまっては口の中ガリガリしますから、あしのむき身を使うのでしょう。このレシピは斬る刻むという記述からして、カニの脚のむき身のことを対象したレシピであり、ミソうんぬんとは触れていませんから、かにみそはお好みでということでしょうか。
鍋を使うとは原文に一言も書いてありませんけども、直火だとごま油に引火しちゃいますので、ここではちゃんと鍋を使います。
味は胡麻油・ショウガ・サンショウ・コショウなどを用いていますので、身体がポッポする辛めのお味になるでしょう。
分量を詳しく示していないのは、好みの辛さによって自由に調整して欲しい、ということを含みにしているのだと思われます。ただし油の使いすぎは身体に良くありませんから、香辛料の粉末が溶かせるだけの量、ドレッシング程度の量にとどめておくのが健康的です。
即時に召し上がるべし、というのは、やはり油料理は冷めてしまっては風味が落ちてしまうことを気にしているのでしょう。
付録:レシピ内の生薬の用途《本草綱目》より
★ 草果の生薬の用途について。
- 上(人參・天雄・桂心)
- 中(人參・黃・丁香・木香・草果)
- 下(附子・桂心・硫黃・人參・沉香・烏藥・破故紙)
《本草綱目》主治第三巻・百病主治藥の脾胃の項目の、さらに【食滞】草部に草果が挙げられています。これは胃もたれや消化不良に効くということを示した記述になります。ほかにも同項目に縮砂(砂仁)・醬・海藻などの名前が見えます。
※ 食滞は胃腸消化の働きが良くない症状、胃や腹の調子が悪い様を指します。食滞の症状のほかには虛寒・痰食・痰熱・虛損・口臭の症状の生薬の材料として名前が見えます。主治第四巻では帶下の項目などに名前が挙げられ、幅広い用途で効果を期待された材料であることがわかります。
★ 茴香の生薬の用途について。
- 氣(白朮・楝實・茴香・砂仁・神曲・扁豆)
- 血(桂心・延胡索)
★ 砂仁の生薬の用途について。
- 補母(桂心・茯苓)
- 氣(人參・黃・升麻・葛根・甘草・陳橘皮・藿香・葳蕤・縮砂仁・木香・扁豆)
- 血(白朮・蒼朮・白芍藥・膠饴・大棗・乾薑・木瓜・烏梅・蜂蜜)
- 補母(人參・山藥)
- 氣(知母・玄參・補骨脂・砂仁・苦參)
- 血(黃柏・枸杞・熟地黃・鎖陽・肉苁蓉・山茱萸・阿膠・五味子)
★ 花椒の生薬の用途について。
★ 薑の生薬の用途について。
★ 胡椒の生薬の用途について。