炙魚:エツのあぶり干物と甕詰めのコツ《中饋録》訳注02

中饋録

※ このページは呉氏《中饋録》脯鮓の炙魚の原文、書き下し、注釈、現代語訳、現代的レシピを掲載したものです。

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【レシピ】エツのあぶり干物と甕詰めのコツ

瓶蔵のイメージとパンダの料理人

甕(かめ)のイメージ

中饋録(ちゅうきろく)》にあるエツ魚の料理メモを紹介します。今回は伝統製法のコツをかんたんに記したもので、レシピよりも背景について知る方に面白みがある回になります。

じゅんびするもの
  • エツ(魚)
  • なべ
  • 油:鍋を焦がさない程度の量
  • 保存容器:(かめ)やタッパなど
  • 竹皮などの食材を仕切るクッキングシート

★干物コース★

  • お料理スタート
  • STEP.1
    わたを取る
    魚の内臓を取り除き、水洗いしてキレイにしておきます。
  • STEP.2
    火であぶる
    火であぶれば、あぶり干物のできあがり。
  • 完成

★詰めコース★

  • お料理スタート
  • STEP.1
    魚の処理
    魚の内臓と頭と尾を取り除き、綺麗にして切り身にします。
  • STEP.2
    切り身を加熱
    なべに油をひいて切り身に熱を加えます。
  • STEP.3
    容器に移す
    切り身を(かめ)やタッパなどの保存容器に移すときには、竹皮やクッキングシートを挟んで切り身同士がくっつかないようにします。
  • 完成

瓶の挿絵

※ 《中饋録》の500年以上前の書《齊民要術》に今回の調理法に共通した魚醬(ぎょしょう)の作り方の記述があります。このことから(かめ)調理と魚醬の深い歴史を感じることができます。詳細は下記付録を参照ください。

【原文・白文】《中饋録》炙魚

呉氏《中饋録》脯鮓

炙魚

 説郛の原文 

鱭魚新出水者治浄炭上十分炙乾收藏一法以鱭魚去頭尾切作段用油炙熟每服用箬間盛瓦礶内泥封

 古今図書集成の原文 

鱭魚新出水者治淨炭上十分炙乾收藏一法以鱭魚去頭尾切作段用油炙熟每服用箬間盛瓦罐內泥封

 注釈 明《説郛》巻九十五。清《古今図書集成》経済彙編、食貨典、飲食部、彙考三。に《中饋録》収録。

※ 每服 →明・韓奕《易牙遺意》では每段としている。「炙魚、鱭魚新出水者治淨炭上十分炙乾收藏。又法、以鱭魚去頭尾切做段用油炙熟每段用箬間盛瓦罐內泥封。」ぶつのごとに。

書き下し・注釈

水新たに出でし鱭魚(エツ)は治浄し、炭上で十分に(あぶ)()
して収蔵す。一法、以て鱭魚の頭尾を(のぞ)き、(ぶつ)に切るを()し、油を用いて炙熟す。服す毎、(たけのかわ)を用い間して瓦礶の内に盛り、泥で封ず。

注釈

鱭魚=エツ。ニシン目カタクチイワシ科エツ属。大陸種と日本種が同じものであるかは見解が分かれるところ。大陸種は生薬としても用いられました。《本草網目》では鱗部第四十四巻に鱭魚(鲚魚)として名前が挙がっています。効能は下記付録を参照。

治浄=淨を治めること。無垢に処理すること。ここでは魚の臓を取り去ることと解釈。/《廣韻》→淨、無垢也。

炭上=ここでは炭火の上と解釈。

一法=もうひとつの方法。

段に切るを作し=ぶつ切りにしたものをつくる。

炙熟=あぶって煮ること。熟は煮ること。ここでは油の味付けに言及がないので、油は単なる鍋の焦げ付き防止用として考え、シンプルに加熱することと解釈。/《説文解字》→熟は食を()る也。

服す毎=つかうごと。ここでは煮た魚の一切れをカメに移すごとに、と解釈。/《説文解字》→服は用也。/明・韓奕《易牙遺意》の「每段」を採った場合は、ブツ切りにしたごとに、と解釈でき、意味は同じですが、よりわかりやすい表現に改められています。

=ジャク(ササ)。箬は竹皮を指し、筍籜・タケノコのことも含みにした言葉です。竹皮というのは、おにぎりなどを包む茶色い竹の皮のことで、現在の日本でも100均で売られていたりするアレのことです。広義に解釈した場合は「笹」も竹皮の範疇に含まれます。/《説文解字》→楚に謂う竹皮を箬と曰う。《説文解字・段玉裁注》→今俗に云う筍籜、(~後略~)

箬を用い間し=上記の箬をつかって間切り・仕切りをつくること。切り身同士がくっついて、ぐっちゃぐちゃにならない様にシートを挟んでおきます。

瓦礶=瓦礶は陶器のつぼ、かめのこと。瓦は陶器全般を差し、礶は器を差しています。切り身を入れてつぼに保存します。/《説文解字》→瓦、土器の已に燒かれし之の總名。《説文解字》→罐(礶)、器也。

泥で封ず=空気が入らないように密封し、効率的に漬け込みます。

現代語訳

とれたてのエツは内臓を取り除き、ひらき、炭火であぶり干しにして保存します。あるいはこんな方法もあります。エツの頭尾と内臓を外した後は、ぶつ切りの切り身にし、鍋に油をひいて加熱。つぼやタッパーなどの密閉容器に切り身を移すときには、竹皮などのクッキングシートで仕切り、切り身同士がくっつかないようにします。

解説と考察

水墨画風の料理人とパンダの料理人の挿絵

今回は、いわゆるお料理レシピというよりかは、調理法のコツを示したお料理メモとしてのレシピになります。あるいはこんな料理法もあるんだよ!というジャンル紹介という意味も含んでいるのかもしれません。今回は味付けに言及がないことからも、そういう解釈ができます。《齊民要術》を調べてみると、今回の漬け法に似た製法のレシピが記載されており、この壷漬け料理は歴史の深い伝統料理法だということがわかります。(下記の付録参照)

わざわざエツの魚に限定して調理法が書かれているのは、エツに生薬としての効能があると考えられていたから…とも思いましたが《本草綱目》に限って言えば、エツの名前の掲載箇所は少ないです。そこで、六朝北魏・賈思勰《齊民要術》の方をあたってみると、鱭魚に関する記述がありました。

1番目の生干しの干物については言うまでもありませんが、内臓を取り除いた後に水洗いや塩水に浸すなどの処理をしないと生臭いです。味付けをする際は、水洗いと生干しの間に行うのが通常の調理法になります。

2番目の調理法は油で加熱していますので、長期保存にはあまり向きません。冷暗所に保存したとしても冷凍でなければ不安があります。ということは、2番目の調理法はなにか味をしみ込ませた、漬けにしたいときに行う方法だと考えられます。

秘伝のタレが入った瓶の挿絵

漬け以外には、魚醬という魚ダシの調味料をつくるときに、これに似た方法がとられていました。下記の《齊民要術》の魚醬の作り方は、かめを密封しておこなう密閉発酵を利用している様子がうかがえます。通常のしょう油は適度に攪拌しますが、魚醬の場合は下手に混ぜて魚が酸素に触れてしまうと腐りますゆえ、攪拌による発酵促進のメリットよりも魚腐敗のデメリットの方が大きく、一度閉じたら密閉したままにしておくのが(原始的な方法では)合理的であり、そういう点で閉じたら開けない《齊民要術》の手法は理にかなっています。

付録:レシピ内の生薬の用途《本草綱目》《齊民要術》より

★《本草綱目》より

《本草綱目》鱗部44巻

該当の項目には《本草綱目》の著者、李時珍による解説が載っています。それによれば鱭魚(鲚魚)は様々な呼び名があり、曹操(魏武)の料理本である《魏武四時食制》で望魚と呼ばれるものは、この鱭魚と同じものを指しているのだとしています。

薬効について。こちらはお料理の記事なのでとても躊躇してしまいますが、該当部に「貼痔」という記述があります。なんらかの形で痔に貼る・塗布すると効く旨の記述だと解釈できます。わーお。

★《齊民要術》より
《齊民要術》8巻・作醬等法第七十

該当箇所の原文(カッコ付きは注部)

作魚醬法(鯉魚鯖魚第一好鱧魚亦中鱭魚鮐魚即全作不用切)去鱗淨洗拭令乾如膾法披破縷切之去骨大率成魚一斗用黃衣三升(一升全用二升作末)白鹽二升(黃鹽則苦)乾薑一升末之橘皮一合(縷切之)和令調均內甕子中泥密封日曝(勿令漏氣)熟以好酒解之作魚醬肉醬皆以十二月作之則經夏無蟲(餘月亦得作但喜生蟲不得度夏耳)

乾鱭魚醬法(一名刀魚六月七月取乾鱭魚盆中水浸置屋裏一日三度易水三日好淨漉洗去鱗全作勿切率魚一斗麴末四升黃蒸末一升無蒸用麥糱末亦得白鹽二升半於盤中和令均調布置甕子泥封勿令漏氣二七日便熟味香美與生者無殊異)

完訳は堪忍してください。それだけで数日つぶれちゃいます。

色つき文字は注目のポイントです。全体を見てサクッと要約すると、前者は魚醬をつくるための手順や材料の分量などを記したものです。後者は干物にした鱭魚をダシにした魚醬のつくりかたです。魚醬とは魚介のダシでつくられたしょう油のような調味料で、日本を含む東アジア・東南アジアで馴染み深い調味料です。タイのナンプラーなども仲間です。

両レシピの材料として鱭魚の名が記されているのが見えます。いろいろな材料を混ぜたりして、最後は器で封じ、前者は半年、後者は27日熟成させた後に取り出して美味しく使うことができることも解ります。

《中饋録》は年代を決定づける資料少なく、推定でだいたい西暦1100年~1200年ごろの書と見られ、《齊民要術》はおおむね西暦530年ごろの書とされています。このことから今回のような(かめ)調理は、この2書の期間だけを切り取っても500年以上続く歴史の深い製法であったということになります。現代までの期間で考えれば少なく見積もっても1500年以上生き続けている、歴史の深い文化なのであります。

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