水醃魚:コイの粕漬け《中饋録》訳注03

中饋録

※ このページは《中饋録》水醃魚の原文、書き下し、注釈、現代語訳、現代的レシピを掲載したものです。

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【レシピ】コイの粕漬け

魚を切り分けるイメージとパンダの料理人

中饋録(ちゅうきろく)》にある(こい)の歴史的かす漬けレシピを紹介します。手順は現代日本とも共通しておりますが、現代的なレシピに比べて塩たっぷりなのは、食あたり防止のためや保存面を重視してのことだと考えられます。

じゅんびするもの
  • コイの切り身:600g
  • 酒粕:600g
  • 炒り塩・焼き塩(にがりを含んだ塩):150g 大さじ10
  • 塩:75g 大さじ5
  • タッパなどの密封容器
  • お料理スタート
  • STEP.1
    水分をとる
    コイの切り身の水分をクッキングペーパーなどでよく拭き取っておく。
  • STEP.2
    塩をすり込む
    炒り塩をコイの切り身によくすり込み、塩は取り除かず一晩漬けおく。
  • STEP.3
    陰干し
    一度塩を取りはらって陰干しにする。数10分~数時間程度おき、水分が出ているようならクッキングペーパーなどで拭き取る。
  • STEP.4
    粕床の準備
    塩と酒粕をまぜて、タッパなどの保存容器にいれて粕床を準備する。
  • STEP.5
    埋める
    コイの切り身を酒粕のなかに埋める。密封して冷蔵庫などに入れておく。
  • 完成
    2~3日つけたら(このレシピではしょっぱいかもしれませんが)召し上がれます。

【原文・白文】《中饋録》水醃魚

呉氏《中饋録》脯鮓

水醃魚

 説郛の原文 

臘中鯉魚切大塊拭乾一斤用炒鹽四兩擦過淹一宿洗浄㫰乾再用鹽二兩糟一斤拌勻入瓮紙箬泥封塗

 古今図書集成の原文 

(説郛本とおなじ)

 注釈 明《説郛》巻九十五。清《古今図書集成》経済彙編、食貨典、飲食部、彙考三。に《中饋録》収録。

書き下し・注釈

(ろう)中の鯉魚を大塊(たいかい)に切し、拭きて乾す。一斤を用し炒鹽(いりじお)
四兩を擦過(さっか)し、一宿()け、洗浄して㫰乾し、再び鹽二兩を用し、糟一斤、(ひとし)く拌し、(かめ)に入れ、紙と(たけのかわ)、泥を塗りて封ず。

注釈

水醃魚=すいえんぎょ。水醃は漬けの事。水醃魚は魚の漬け料理。水醃菜だと野菜の漬け料理となります。

臘中臘月(ろうげつ)の中という意味。臘月は旧暦12月のこと。《説文解字》を引用すれば、厳密には冬至(旧暦11月ごろ)から三戌(三回戌の日を迎えるまで)の期間を過ぎた頃までを指します。ここでいう戌とは戌の日を指します。戌の日は12日周期でやってきて、月ごとに変化します。したがって冬至から三戌過ぎたあたり、というのは、少なくとも冬至後36日経過したくらい以上の期間ということになり、日付は定められませんが、大雑把に言って旧暦12月中となります。/《説文解字》→臘、冬至の後三戌、臘、百神を祭す。

鯉魚=さかなのコイのこと。

大塊=おおきなかたまり。ここでは大きく切り分けたコイの切り身のこと。

一斤=いっきん。いちきん。ここでは切り身の分量。宋~元代の一両を約37.3gとして、1斤=16両で596.8gとなります。仮にコイの大きな切り身が一切れ120gだとすると、5切れくらいのサイズ感になります。

炒鹽四兩=炒った塩、四両。仮にこの時代を宋~元だとして、一両は約37.3g、四両で149.2gほどの重さになります。だいたい150g、おおさじ10杯の塩ということです。

擦過=さっか。こすれること。ここでは切り身に塩を擦り付けることと解釈。

一宿=ここでは一晩のこと。

㫰乾=暗所・日陰で乾かすこと。陰干し。㫰は《集韻》では里党・むらを断つ、としていて、ここではひと気のない場所、転じて日陰と解釈します。/《集韻》→㫰、里黨切。

鹽二兩=塩二両(約74.6g)だいたい大さじ5杯の塩。

=かす。ここでは酒糟(酒粕)のこと。/《説文解字》→糟、酒滓也。

勻く拌し=勻は均に通じます。ムラなくまぜて馴染ませること。

=ジャク。竹皮のこと。おにぎりを包む竹の皮。広義に笹としても。詳細は炙魚の注釈(箬)と重複します。/《説文解字》→楚に謂う竹皮を箬と曰う。

現代語訳

年の暮れにとれるコイを大きな切り身にして、水気を拭き取って乾かします。計600gくらいのコイの切り身に対し、炒り塩150g(大さじ10杯の塩)ほどをすり込みます。それを一晩置いたら塩を取り除いて(水洗いはしないで)陰干しします。よきところで塩75g(大さじ5杯)と酒かす600gを混ぜ合わせたものを、コイの切り身と一緒に(かめ)などの容器に入れ、空気に晒さぬようにしっかりと口を閉じて密封します。

解説と考察

鯉の挿絵

現代の日本的な視点からみても、手法としては非常にポピュラーなレシピです。

塩をすり込む理由は魚の水気をとる為であることは、言うまでも有りません。水気が抜けているほうが酒かすの味が良く染み込みます。

分量に注目すると、粕床に使用する塩(大さじ5杯)も、すり込む塩(大さじ10杯)も、かなり多めであるところに目がいきます。パッと見しょっぱそうな気がしますけども、もちろんこの分量が魚にすべて染込むわけではありませんし、殺菌や保存の面を考えると塩は多いほうが好ましいと言えます。そういう保存面では合理的なレシピです。

陰干しする時間については触れておらず、どのくらい置いておけばいいのかという疑問については、現代的な感覚で言えば、塩を取り除いた段階で漬けてしまってもいいし、水気がまだ出てきそうならば数時間くらい様子を見てもよさそうですね。

紙うんぬんで蓋をするというのは、要するに密封することを指していますので、かめでなくタッパとか密封ガラス容器などでも漬ける事ができます。

コイの生態を考えた場合、コイは冬の寒い時期は活動的ではありません。食べることについても鈍くなります。なぜこの寒い時期を指定したレシピなのかというと、あまりエサを食べないコイは、変なものも食べないし、キレイで安全なのかもしれませんね。

鯉は縁起モノ。鯉は諸魚の長

もう1ついえるのは、コイは滝を登ってやがて龍になる登竜門というおはなしがあるくらいの縁起モノでありまして、年の暮れの近いこの時期に、お祝い用に漬け込んでおくという意味もあります。

《本草綱目》鱗部第四十四巻の鯉魚の項目の「集解」のコーナーで「諸弘景曰、鯉爲諸魚之長、形既可愛又能神變~(後略)」という記述を引用しています。これは「陶弘景曰く、鯉はいろんな魚の中の長、愛らしくて神々しいうんぬん」という旨の記述であり、鯉が昔から特別視されていた様子がうかがえます。(陶弘景は六朝・梁の人。《本草経集注》の著者。一説には《名医別録》の著者としても。)

《本草綱目》のなかの鯉というワードの登場回数はかなり多く、効能としても良い効能や禁忌、両面でよく登場します。いい面も悪い面も調べつくされるほど、鯉は馴染みの深い魚だったことがうかがえます。

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