今回は中華書局「十一家注孫子校理」のおすすめポイントを紹介します。
関連 おすすめ書籍カテゴリー「十一家注孫子校理(新編諸子集成1)」 おすすめの概要
ボリューム | |
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くわしさ | |
お買い得感 | |
総合 |
- 校理:楊丙安
- 発行:中華書局
- 字体:繁体字
- 巻数:全1巻(新編諸子集成1)
- 総頁:366ページ(初版1刷)
- 定価:17.00元(初版1刷)
巻末付録として、つぎのような文書が抜粋収録されています。
- (漢)司馬遷「孫子本伝」
- (後漢)曹操「注孫子序」
- (唐)杜牧「注孫子序」
- (宋)歐陽修「孫子後序(書孫子後)」
- (宋)鄭友賢「十家註孫子遺説併序」
- (明)談愷「孫子集註序」
- (清)孫星衍「孫子兵法序」
- (清)畢似玽「孫子叙録」
- (清)魏源「孫子集注序」
まずひとことで言うと、「十一家注孫子校理」は原文について調べるのに便利な書です。
十一家注系統の孫子の原文を確認しながら、他系列との差異もわかりますので、学習や参考資料に最適な書籍です。文章の字体は繁体字であり、日本語の辞書とも連携しやすいという学習面の大きなメリットがあります。
注釈・解説文は現代中国語で書かれていますから、心得がない人にとっては言葉のハードルがあります。しかし、そこさえどうにかなれば、学習・参考の要点がコンパクトにまとめられていますし、利便性の高いとても魅力的な本なのです。
冒頭の解説文などはつらいかもしれませんが、注釈部分の文章はわりかし短文ですので、漢文訓読の心得だけでチャレンジしてみても、なんとなく内容がわかるハズです。
おすすめのポイント
以下、さらに細かいおすすめポイントについて具体的に魅力を紹介していきます。(1999年3月発行、第1版より)
代序:十一家注孫子の概要がつかめる
まず冒頭に掲載されている、十一家注孫子についての概要を述べた文章について。
この序文から以下のような事柄をつかむことができます。
- 十一家注孫子とはなんなのか
- 成立の背景
- どのように研究が進められてきたか
この文中には、孫子に関連する様々な文献書名や固有名詞等のワードがあらわれますから、学習を進めるためにはどのような事柄について調べればよいのか解ります。この要素は、孫子の原文について深く知りたい初心者にとっても魅力的なポイントと言えるでしょう。
参引書目:奥に進むための道しるべ
この書をつくるにあたって参考にした書名がリストアップされています。
これはつまり、読み手がさらに奥まで調べたいとき、辿って行きたいときに何の本を調べればよいのかが確認できる要素です。この要素がしっかりしている書籍は、学習者にとって利便性の高い書籍です。
本編:簡潔でコンパクト
本編である、原文+11家注+本書注釈について。
こういった本ではオーソドックスな、原文は大きな字、注釈は小さな字という形がとられています。それぞれの番号がふられた部分は、後ろの「校記」の番号に対応しており、その文章が本書注釈となっています。こちらもオーソドックスなかたちです。
本書注釈の内容は要点だけを述べた簡潔なもので、必要な部分を迷うことなく確認できます。
ボリュームを知りたい方のための参考までに、それぞれの編の本書注釈数をまとめてみました。
01、計篇 | 62注 |
02、作戦篇 | 28注 |
03、謀攻篇 | 59注 |
04、形篇 | 40注 |
05、勢篇 | 44注 |
06、虚実篇 | 64注 |
07、軍争篇 | 69注 |
08、九変篇 | 33注 |
09、行軍篇 | 89注 |
10、地形篇 | 38注 |
11、九地篇 | 97注 |
12、火攻篇 | 36注 |
13、用間篇 | 33注 |
合計 | 692注 |
注の数が多い章というのは、他系列との差異が多い、あるいは他の書に引用された数が多い章であることを示す目印にもなります。巻末の付録の文章にも注釈が50注ほどあり、総計では750くらいの注釈数になります。
750近い注釈数というのは、それぞれの裏を取りながら編集していくわけですから、たとえ簡潔な注釈だとしても膨大な時間と労力、たいへんな手間隙が掛けられていることが容易に想像できます。見た目には地味な本ですが、その本質は学習者にとって非常に価値の高い本です。
付録:孫子叙録が便利でたのしい
付録のなかで面白いのが(清)畢似玽「孫子叙録」です。
孫子(孫武)の伝記、孫子という名前、孫子の言葉などの「孫子がらみ」について触れられた文献名と引用箇所を網羅しています。
いまでいう「まとめサイト」「キュレーションサイト」のようなことをしている「孫子叙録」ですが、単なる引用だけでなく、時折に解説が挟まれています。
いろんな書物に孫子が引用されているのが見て取れますし、単純に雑学として読んでも楽しいです。また、この要素は上記の「参引書目」で述べたような、学習者が奥に進むための道しるべとしても機能します。
付録:十一家注孫子ってなーに?→位置づけの解説
十一家注孫子の位置づけを図にまとめてみました。厳密に言うとこれほど単純ではありませんが、ざっくり示すとこういう感じです。
十一家注孫子というのをわかりやすく言いますと「オリジナル孫子のコピー、アレンジ本のうちのひとつ」です。コピー本では他にも「武経本系統」などがポピュラーです。この二つは曹操が編集した、いわゆる「魏武注孫子」を基につくられています。
画像のうち「オリジナル孫子」は発見されておらず、概要が伝聞で伝わるのみです。銀雀山漢墓で発見された「竹簡孫子」は現存しますが虫食い状態で完全な姿では読めません。曹操の「魏武注孫子」もオリジナル品は発見されておらず、コピー品とおぼしきものがいくつか見られますが、はっきりとはしません。(このあたりの概要も本書内で解説されています。)
完全な姿で現存しているうちのひとつが、この十一家注系統の孫子でありまして、オリジナルに近いかたちの孫子原文を調べる場合の、重要な資料のひとつとして位置づけられています。
関連 十一家注孫子の注者11人の紹介付録:どこで買えばいいの?→書虫はいかがでしょう
一般的な書店では売っていません。一般の古本屋で扱っている場合もあるかもしれませんが確実ではありません。この手の書籍を確実に入手するなら専門店の店舗を巡るか、信頼できる個人輸入系のオンラインショップを利用する事になります。
そういったショップにはいくつか種類があります。参考までに言いますと、私の場合は2000年に「書虫」を利用してこちらの書籍を購入しました。
リンク 書虫ショップページこの書虫のサイトは1999年からあるショップで、当時いまとはちがう古典系のサイトを開いていた私は、参考書がほしくて結構な数の書籍を購入しておりました。
正直なところあんまり割安感はありませんが(経営上仕方ない事ではあります)、何度か購入してトラブルは皆無でしたので、信頼性は高いと私個人は思っています。
また、2000年代に開かれていた他の古典系サイトの運営者たちのあいだでも、なかなか評判が良かった記憶があります。
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