爐焙雞:蒸し鶏のふっくら照り焼き《中饋録》訳注07

※ このページは《中饋録》爐焙雞の原文、書き下し、注釈、現代語訳、現代的レシピを掲載したものです。

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【レシピ】蒸し鶏のふっくら照り焼き

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中饋録(ちゅうきろく) 》にある、鶏の照り焼きレシピを紹介します。原文では分量ついて触れられていませんが、現代の一般的な照り焼きレシピを参考にして各分量を仮定してみました。このタレにみりん・砂糖・醤油を加えると現代的な照り焼きチキンになります。

じゅんびするもの
  • 鶏肉:300g
  • 料理酒:大さじ1
  • 酢:大さじ1
  • 食塩:適量
  • 炒め油:適量
  • 鍋とフタ
  • お料理スタート
  • STEP.1
    肉を水煮
    肉を水煮して8割熱が通るくらい煮ます(煮終わったらお湯は不要になります)
  • STEP.2
    肉をきる
    湯から出して、お好みの大きさに肉を切り分けます。
  • STEP.3
    軽く炒める
    鍋に油を入れて加熱し、鶏肉を軽く炒めてフタをします(炒めたら火を弱める)
  • STEP.4
    味付け
    酒と酢をまぜてタレを作り、鍋に入れて煮ます。この際、塩もふっておきます。
  • STEP.5
    リピート
    肉のやわらかさの様子を見ながら、タレが減ったら再度加えます(このときの分量は適量。酒1:酢1)。
  • 完成
    何度か繰り返して肉がやわらかくなったら完成。
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【原文・白文】《中饋録》爐焙雞

呉氏《中饋録》脯鮓

爐焙雞

 説郛の原文 

用雞一隻水煮八分熟刴作小塊鍋内放油少許燒熱放雞在内略炒以子或椀葢定燒及熱醋酒相半入鹽少許烹之候乾再烹如此數次候十分酥熟取用

 古今図書集成の原文 

用雞一隻水煮八分熟剁作小塊鍋內放油少許燒熱放雞在內略炒以子或椀蓋定燒及熱醋酒相半入鹽少許烹之候乾再烹如此數次候十分酥熟取用

 注釈 明《説郛》巻九十五。清《古今図書集成》経済彙編、食貨典、飲食部、彙考三。に《中饋録》収録。

書き下し・注釈

一隻の雞を用し、水煮して 八分(はちぶ) を熟し、刴して小塊を() す。鍋内に油少許を放ち、熱して燒き、雞を在内に放ちて略炒し、以て鏇子或いは碗にて葢を定む。燒いて熱するに及び、醋と酒 相半(あいなか) ばし、鹽少許を入れ、之を烹す。乾を(うかが) い再び烹し、数次此の如くし、酥熟すること十分() ちて取り用いる。

注釈

爐焙雞=ろばいけい。炉で(あぶ) ったニワトリのこと。

一隻の雞=にわとり一羽という意味。/《説文解字》→隻、鳥一枚也。

=ここでは前半のものは「煮る」、後半のものは「熟成させる」意味と解釈。/《説文解字》→熟、食飪也。《廣韻》→熟、成也。

=刴(剁)は切る、切り分ける意味。/《廣韻》→刴斫剉也。(詳細は《中饋録》蟹生の注釈を参照)

少許=少々という意味。

在内=この場合は鍋の中と解釈。

略炒=略式で炒めること、かるく炒めること、さっと炒めること。

鏇子=酒を温める時につかう金属具。/南宋・戴侗《六書故》→溫器也、旋之湯中以溫酒。或曰今之銅錫盤曰鏇、取旋轉爲用也。→■訳:温める器具のこと。この中に湯をめぐらせて酒を温める。あるいは今に言う銅錫盤のことを指し、回転させて使うもの。(ターンテーブルのような)

=酢。

=塩

=ここでは煮ることと解釈。

数次=何回か。という意味。

=ここではバターのように「やわらかく」、テリテリでつるんと「なめらか」な様子と解釈。/《玉篇》→酥、酪也。/白居易《阿崔》→(前略)王牙手爪開、酥顆點肌膚。(後略)

現代語訳

一羽の鷄を用意し、水煮して八割ほど加熱し、細かく切り分けます。鍋に少々の油を入れて熱し、鶏肉をいれ、軽く炒めて蓋をします。この工程では酢と酒(分量1:1)と少々の塩を入れて煮ます。汁気がなくなったら先程のタレを加えてまた煮ます。これを数回繰り返して、肉がやわらかくなったら料理に使ってよいです。

解説と考察

料理的

酒を加えて蒸し焼きにしていることから、これは照り焼きのようなものを作っていることがわかります。

一度水煮して下ごしらえする理由は、茹でることで余分な脂を落とすことができるという点にあります。脂が切り離されていない、野生の肉に対して効果的な方法です。昔の衛生状態の良くない肉であれば殺菌の効果もここに加わります。

8割火を通してから煮る工程に入る、という方法は現代日本でもあるレシピでありまして、これは煮る工程で加熱される分を考慮した効率的なやり方です。

もしタレだけで肉を加熱しようと思ったら、結構時間がかかってしまいますし、肉も硬くなっていまいます。そういった点も考えられた効率的な方法と言えます。

タレについて。酒と酢のタレで蒸し焼きにすることで、鶏肉をふっくらさせる効果があります。タレにみりん・砂糖・醤油などを加えれば、現代的な和風照り焼きのレシピと殆ど変わりません。

コラム:酥の解釈。語源探しのこぼれ話

「酥」の解釈について。「中国の食譜」の初版では「やわらかく」と訳されています。原文の文脈からみても揺るぎない解釈です。日本の漢和辞典を見ても「やわらかい」意味を含み、中国の方をあたってみても、やはり当たり前のように「やわらかい」意味を含んで解説されています。

しかし「やわらかい」意味で酥を使っている語源を探ってみると、どうも直接的なものは見当たらないのです。《説文解字》や《廣韻》などの辞書系にも「やわらかい」解説がありません。《廣漢和辞典》ですら引用している文献が1915年出版の《中華大字典》ですから、語源探しに相当苦労した様子が感じられます。

単品で直接的なものは見当たりませんでしたが、「やわらかい」に似た「もろい」「よわい」「なめらか」という意味の使い方をした熟語はあります。

  • 五代・閻選《謁金門・美人浴》→酥融(フェイスクリーム)
  • 元・關漢卿《元曲选・趙盼兒風月救風塵・第三折》→酥倒(よわい・もろい)
  • 明《金瓶梅・第一回》→酥胸(なめらか・柔らかい?)
  • 清・林則徐《札蘇藩司將寶山塘工運史船隻加緊催運驗收》→酥脆(もろい)

このようにフニャフニャしたソフトなイメージの使われ方をしています。よって、酥を「やわらかい」と解釈しても差し支えないことがわかります。

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