※ このページは《中饋録》蒸鰣魚の原文、書き下し、注釈、現代語訳、現代的レシピを掲載したものです。
関連 中饋録まとめ【レシピ】ジギョの鱗つき蒸し料理
《中饋録》にある、魚の蒸し料理を紹介します。今回のレシピでは原文の記述を反映して「鱗をとらない」「布や紙で拭き取る」としていますが、衛生を保てない環境下では「鱗をとる」「水で洗う」方が無難です。鱗を取らないメリットは、簡単に言うと味を逃さない効果があります。その他の要素については下記解説を参照してください。
- ジギョ:ニシン科の大陸種
- 花椒、砂仁、醬などの調味料:お好みの量
- 水、酒、葱:適量
- 蒸し器
- お料理スタート
- STEP.1わたを取るジギョ(魚)の内臓を取り除き、鱗は取らない。
- STEP.2きれいにする血は布や紙で拭き取る(水で洗わない)
- STEP.3蒸す魚を蒸し器に入れれて蒸す。
- STEP.4調味料のじゅんび調味料をすりつぶして、水、酒、葱とまぜる。
- STEP.5あえるそれを蒸し器の魚に和える。
- STEP.6鱗をとる食べる前に鱗を取り除く。
- 完成
【原文・白文】《中饋録》蒸鰣魚
蒸鰣魚
説郛の原文鰣魚去腸不去鱗用布拭去血水放盪鑼内以花椒砂仁醬擂碎水酒葱拌勻其味和蒸去鱗供食
古今図書集成の原文(説郛本とおなじ)
書き下し・注釈
鰣魚の腸を去り鱗を去らず、布を用いて血水を拭き去り、盪鑼の内に放つ。以て花椒、砂仁、醬を擂碎し、水、酒、葱を勻しく拌し、其の味を和して、之を蒸す。鱗を去りて食を供す。
鰣魚=ジギョ。時魚とも。ニシン科シャッド亜科。回遊魚。成魚になるまで3年かかる魚で、春先になると海から川に上って繁殖する大陸の固有種。大きさは約20センチ~50センチほどになる個体も。和名としてコノシロとも訳される場合もありますが、厳密には異なる魚種です。
盪鑼=トウラ。盪は酒などを温める器。鑼は盆のような形状の銅製の鼓器。総合すると銅製のなべ。/《説文解字》→盪、滌器也。《説文解字・許慎注》→滌、酒也。酒、滌也。《正字通》→鑼、築銅爲之、形如盆(後略)
花椒、砂仁、醬=それぞれサンショウの一種、ショウガ科のアモムム属、醬は麹と食塩を使用した発酵調味料orミソorしおから、と解釈できます。詳細は(蟹生:花椒、砂仁の注釈)と(瓜虀:醬瓜の注釈)を参照。
擂碎=すり砕くこと。/《玉篇》→擂(中略)研物也。
勻しく拌し=ひとしくまぜあわせること。よくまぜること。勻は均に通じる。
味を和して=ここでは調味料を魚に和えること。
食を供す=食事を提供する。
現代語訳
鰣魚の内臓を取り除き、鱗はそのままにしておきます。血を拭き取って処理したら鍋に入れます。そして花椒、砂仁、醬をすりつぶして、水、酒、葱と混ぜ合わせ、鍋の魚に和えて蒸します。食べるときには鱗を取り除いて提供します。
解説と考察
蒸す前に鱗をとらないメリットは、旨味を皮側の外に逃さないためのバリアとして機能する点です。鱗を熱すると油が出て、油膜によって味の流出を防ぎます。鱗を取らないデメリットは、鱗の隙間に潜む雑菌の危険性がある点があげられます。
《居家必用事類全集》にも同じレシピ「蒸鰣魚」が有り、こちらは粉末茶を振りかけて臭みを取り、洗ってからさばきに入っています。衛生面では《居家必用事類全集》のレシピが優ります。
現代の料理法でも鱗を取らずに魚を蒸す方法があり、こちらも旨味を逃さない効果が期待できる料理法です。ただし衛生面に自信がないなら、現代レシピでも洗った方がやはり無難です。
血を布で拭き取るというのは、魚をさばく時に水洗いをしてしまうと旨味を逃すことになり、また余分な水気が魚に染みて味がぼけてしまうので、布で処理するやり方は、衛生面を除けば合理的と言えます。
食べる前になってようやく鱗を取るのは、やはり鱗があると旨味のある皮の部分まで食べにくいからでしょう。味を優先した調理手順と、食べやすさの両面を考慮した結果が「後で鱗を取る」という、かなり面倒くさい工程になったのだと想像できます。
味のためなら手間を惜しまないのが「職人」ということでしょうか。
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